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超 カーデザイン レビュー

「日本車はカッコ悪い」なんて言わせたくない

マツダ ロードスター 2015 (D 35点)

カーデザイン

ありきたりなカッコ良さよりも 欲をかかず「誰もが幸せになる」車であって欲しい

■まとめ (D 合計35/100点満点)

  マツダ ロードスター(4代目、ND)は歴代ロードスターのオリジナリティを軽視して、ありきたりなFRスポーツカーのカッコ良さを追求。まるでスポーツドライビング オタク専用車で、普通のスポーツカーの1種になってしまった。ブランディングの基本が出来てない。

  30年以上前にユーノス ロードスター(初代 NA)が「誰もが幸せになる」というテーマを掲げて以来、歴代ロードスターロードスターは様々なユーザーニーズに応えられる「万能性」でベストセラーになった。スポーツドライビングは幅広いニーズの1つでしかない。

  新型(ND)は歴代ロードスターのライトウェイトスポーツカーのプロポーションを捨てた。サイズの小ささを無視して、大エンジンFRスポーツカーで ありがちのロングノーズ、ショートデッキ、ボディ前後の強い絞り込み。そのためオープンの解放感や荷物の積載性が減り、ハッピー スマイル フェイスでなくなった。

  点数が辛口に見えるかもしれないが、今回の比較対象車は歴代ロードスターなので仕方ない。それが歴史的ブランドの重みだ。

  次のモデルチェンジでは是非「誰もが幸せになる」オリジナリティあふれる車になって欲しい。私はロードスターの主査だった貴島孝雄氏の次の言葉を信じている。

<Ref. 「NAは寿命が尽きてしまう頃」「同じ楽しさをお求めになる方に乗り換えて頂くクルマがなくてはメーカーとして申し訳ない」「たとえばNAと同じプロファイルで、衝突安全性をクリアし、より快適に楽しくする。それをやるのが“技術者”っちゅうもんでしょう。マツダはもちろんソレができる、と、私は思うちょりますよ」 https://business.nikkei.com/article/NBD/20131029/255226/>

  初代ロードスターの主査だった平井敏彦氏は、生前「欲をかいちゃいかん」と言っていたそうだ。その言葉を解釈すると「ロードスターは誰もが乗れるライトウェイトスポーツらしい割り切り」ということになるだろう。その精神を忘れないで欲しい。

 <Ref. 「欲をかいちゃいかん」https://clicccar.com/2023/04/16/1276576/>

カーデザイン

左 初代 NA、右 4代目 ND

カーデザイン

■主な比較対象車

・ユーノス ロードスター(初代 NA) 原点、単純そうだが奥深い

マツダ ロードスター(2代目 NB) アメリカナイズ、怒り肩

マツダ ロードスター(3代目 NC) 幾何学的、ハードトップが見事

・ポルシェ 911 (参考車)

BMW Z4 (参考車)

■キャラクター

・ポジション

  2015-2016年 日本カー・オブ・ザ・イヤー、2016 ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したマツダ ロードスターは初代(NA) 発売開始から30周年を超えた歴史的ブランド。世界で1番多く生産された「2人乗り小型オープンスポーツカー」としてギネスに認定された世界的ベストセラー。

・用途、ユーザー

  初代は「誰もが幸せになる」という壮大なテーマを掲げ、様々なユーザーニーズに応えられる「万能性」によって、数多くのフォロワー(追従車)を振り切り、マーケットリーダーになった。(初代の価値については後述)

・デザイン要求

  つまり歴史的なブランドの価値を守りながら、時代に合わせて更新していくデザインが求められる。

■コンセプト (15/30点満点)

カーデザイン

・テーマ

 「守るために変えていく」がキーワード。歴史的ブランドとして重要なテーマだ。問題なのは守るべきものと変えるべきものの区別が出来ていないこと。

  その結果、歴代ロードスターのオリジナリティを軽視して、固有の価値を損なってしまった。ブランディングの基本が出来てない。(-10点)

  例えば、ポルシェ 911は伝統的な価値としてシルエットを大切に守っている。ポルシェのデザイナー山下周一氏によると以下の通り。

<Ref. 「 初代911から すでに50年以上たった今も、大きさこそ変われど このシルエットは変わらない」「我々ポルシェ・デザイナーは この先何があろうと この姿を守り受け継いでいかなくてはならない」 『ENGINE』No. 214 2018/7>

・アイデア

  「ロードスターの第二次性徴期」がキーワード。具体的には台形のスタンス、タイヤ外出し、前後を絞り込んだモダンなプロポーションだそうだ。それだけなら他の車と変わらない。まだ大人に憧れる思春期という段階か。この車ならではのオリジナリティが発揮できなければ意味はない。それが分かれば大人になるのだが。(-5点)

  マツダはコンセプトカーのRXビジョンとビジョンクーペでイメージを示しているが、いずれも古典的な大エンジンFRのプロポーションなので、ライトウェイトスポーツカーであるロードスターの参考にならない。

・スタイル

  マツダのデザインスタイル「魂動」を進化させてキャラクターラインを減らしたスタイルを先取り。「5ポイントグリル」や「シグネチャーウイング」は適用されておらず、ロードスターらしさを表現できる自由度がある。

・パッケージング

  新型(ND)は歴代ロードスターの「ライトウェイトスポーツのパッケージ哲学」を踏襲。

-フロントミッドシップのFR方式

-軽量コンパクトなオープンボディ

-50:50の前後重量配分

-低ヨーイナーシャモーメント

  先代(NC)に比べてみると、全長とホイールベースが縮小、全幅が少し拡大。プラス、マイナスのトータルで軽量化に配慮されているのは好ましい。(+5点)

  そしてエンジン搭載位置が後方かつ下方に移動、着座位置(ヒップポイント)が後方、下方、内側に移動。タイヤへの重量配分としては良い方向だが、人にとっては良いと言えない。クルマの重心とドライバーの体幹が離れる方向、足元が狭くてペダル配置が苦しくなる方向、オープンでの解放感が減る方向だ。(-5点)

  特に右ハンドルのペダル配置は改善して欲しい。左ハンドルは適正なペダル配置と言って、ドライバーの体の中心線上にブレーキペダルを配置。一方、右ハンドルは体の中心線上にクラッチを配置し、ブレーキペダルは右にオフセット。右ハンドルも適正化して欲しい。

■全体デザイン (-5/20点満点)

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・プロポーション

  歴代のライトウェイトスポーツカーらしいプロポーションを失った。そして大エンジンFRスポーツカーで ありがちなロングノーズ、ショートデッキに。

  これではロードスターというよりBMW Z4 (初代)を縮小したようなプロポーションだ。(ついでにマツダ ロードスター RFはBMW Z4クーペみたいだ)  初代はアメリカでの存在感を増すため、役員説明後に わざわざリアオーバーハングを延ばした というのに。(-10点)

  Aピラーをドアヒンジより後ろにオフセット。ロードスターの価値であるオープンの解放感やライトウェイトスポーツの軽量化に不利だ。優先順位が本末転倒。

  ベルトラインはヒップポイントの割に高く、横方向の解放感も良くない。

・フォルム

  歴代の伸びやかさが なくなった。新型はボディの角を面取りしたみたいにボディの絞りが強烈。やり過ぎてデザイン全般に悪影響。(-10点)

   大エンジンFRとは違ってボディサイズが小さいのにコーナーの面取りが大きく、ノーズが低いので、オモチャのチョロQのデフォルメみたいに ボディがチンマリ見える。またデザインの制約になり、ロードスター固有のグラフィックが実現できなくなった。トランク容量にも影響。

  歴代のコークボトル シェイプは残っているが、歴代シェイプを大切にした というよりタイヤ強調のため腰を大きくした結果という感じ。歴代になかった「腰骨」もあるし。(腰骨については後述)

・カラーリング

  歴代に有ったグリーンが選べないのは残念。大自然との一体感を感じなから走るロードスターには自然と調和するグリーンが似合う。もし新型のデザインにグリーンが合わないとすると、やはりロードスターらしくないということだ。(-5点)

■フロント (10/20点満点)

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・ランプ

  歴代のハッピースマイルで なくなった。強烈に絞られたボディの中に なんとか はめ込んだような鋭い切れ長のランプ形状。目頭側が細長く伸びていて、美容整形の「目頭切開」したみたいな違和感。(-5点)

・グリル

  歴代のスマイルを意識したのか逆台形を少し丸めた形状。しかし口角が尖っているため引きつった笑顔みたいでハッピーに見えない。(-5点)

・バンパー

  グリルの縁のように変わった。そのためナンバープレートがグリルの中に入り、ネズミの前歯みたいになってしまった。まあ日本のナンバープレートは置きにくい形ではあるのだが。

・ボンネット

  ここだけ強いキャラクターライン。前方見切りを良くするためには効果的。

■サイド (15/20点満点)

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・ルーフ

  Aピラーが後方にオフセットしたので、ソフトトップが小型化し、開閉が楽になった。しかし解放感とどっちが優先かと言われれば、解放感だろう。

フェンダー、ドア

  歴代より高いフロントフェンダーの峰は前方見切りを良くするために効果的。

  魂動を表現したサイドボディの曲面は豊かな抑揚で見事。

  しかしドアからリアフェンダーにかけての唐突な上向きキャラクターライン「腰骨」が面の流れを損なっている。後輪を強調するにしても やり過ぎ。(-5点)

・ウィンドウ周り

  三角窓は風の巻き込みをコントロールするためにミニマムなサイズでモダン。

■リア (0点/10点満点)

カーデザイン

・ランプ

  ボディの絞りが強過ぎて、歴代の特徴である楕円形ランプを置けなくなった。代わりに法規ギリギリまで内側に寄せた丸目ランプと その外側に細長く尖ったランプ。寄り目みたいで違和感。丸目にしない方がマシだったのでは。(-5点)

  初代のランプはニューヨーク近代美術館(MOMA)に展示、永久収蔵されるほど魅力的なのだが。

・トランク

  歴代よりトランク容量が減り、開口部も狭くなってしまった。これでは旅行やレジャーで使いにくい。(-5点)

  初代の平井敏彦主査はゴルフバックが積めることを求めていたものだが。

■「誰もが幸せになる」ユーノス ロードスター(初代 NA)の価値

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・キャラクター

  ユーノス ロードスター(初代 NA)は先ず最初にセクレタリーカーとして企画されたため、スポーツ ドライビングに用途を特化せず、万人受けするデザインも含め、様々なユーザーニーズに応えてベストセラーになった。キーワードは「誰もが幸せになる」。その「万能性」が初代のオリジナリティあふれる価値だ。

  例えば、スキーキャリアにスキーを積んで、トランクに数泊分の荷物を載せ、開放的なオープンで自然との一体感を味わいながら、ライトウェイトの軽快な乗り味を楽しめる車なんて他にはない。そのうえ女子ウケ抜群のハッピー スマイル フェイスとキュートボディだ。

  また素性がシンプルかつ素直なので応用しやすい。カスタマイズはレーシングからラグジュアリーまで幅広く普及し、マツダがカスタム コンプリートカー専門会社のM2を作ったくらいだ。

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・デザイン

  テーマは「ひびき」と「きらめき」。緊張感を持ったシンプルな造形の中に複雑なシャドーを写し込み、見る人の心に響くカタチ、自然の中に融和しながら きらめく存在感を持ち、簡略を極めた曲面が織り成す生命デザインだそうだ。大自然との一体感を感じながら走るにはピッタリだ。

  モチーフは ほのかな色気のある能面の「若女」。横から見て、額がボンネット、顎がテールだそうだ。日本的モチーフは世界に対してユニークなオリジナリティだ。

  そんなテーマとモチーフでデザインしたので奥深いデザインになったのだろう。遠目には単純そうな形に見えながら、近づくと意外に複雑で発見がある。

  そして要素の形状が統一されて明快だ。フロント シルエット、グリル、ランプ、ドアハンドル、ドアミラー等のグラフィックが楕円形で統一されている。記憶に残りやすい。

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・乗り味

  初代特有の価値は「人馬一体」という乗り味についても言える。「一体感」、「緊張感」、「走り感」、「ダイレクト感」がキーワード。

  特に「一体感」は車との会話だそうだ。初代は人が車の中心に乗っているというパッケージング上の一体感もあるが、人と車の双方向の対話こそ初代が1番楽しいと思える理由ではないだろうか。だから ゆっくり走っても楽しい。

  その裏付けとなるようなマツダ ロードスター(4代目 ND)開発時のエピソードがある。

<Ref. 「歴代ロードスターを含む世界各国の15台のクルマを用意し、27人のスタッフを招集してクルマの楽しさを評価する試乗会を開催した」「その結果、軍配が上がったのは初代ロードスターだった。同時に高く評価されたのはポルシェ・ケイマン、ルノー・キャトル」「そのテストを振り返った操縦安定性担当エンジニアは『3台ともコーナーを曲がる時のクルマの振る舞いが、体感的にも視覚的にも手に取るようにわかりました』と言う」 https://president.jp/articles/-/20774?page=2>

  その試乗会の結果、新型(ND)のキーワードは「手の内/意のまま感」、「軽快感」、「解放感」。車が人の意のままなのと、車と人の会話では意味が違う。はたして新型の楽しさは どうだろう。

  ところで「味」という言葉で感覚を表現されるモノは少ない。車の「乗り味」、ナイフの「切れ味」、ペンの「書き味」くらいか。多くのモノは「心地」を使う。

  積極的にモノを動かしてモノから応答を感じる、ダイナミック フィードバックが「味」と言われる。そうでないフィーリングは「心地」だ。車だってドライバー以外にとっては「乗り心地」だ。

  初代は車にとって重要なダイナミック フィードバックが分かりやすいから楽しいのだ。

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・サポート

  マツダは初代を大切にしている。発売から28年後「NAロードスターレストアサービス」をスタートさせた。なんと幸せな車だろう。

<Ref. 時代を超えてクルマを愛してやまない方たちと一緒に、NAロードスターのある人生の楽しさを追求していきたい。 https://www.mazda.co.jp/carlife/classicmazda/restore/>

  しかも驚くべきことに、そんなレストアサービスは初代の企画前から想定されていた。初代のデザイナーであるトム俣野氏は以下のストーリーを語っている。それが本当に実現するなんて涙が出そうだ。今でも初代に乗っている人が羨ましい。

<Ref.  何十年も経って、子どもが成人し、また2人乗りの車に乗れる日が訪れたら、かつて自分が乗っていたミアータを再び手に入れる。少々傷んだ車であっても、レストアして乗りたくなるような車であってほしい。そのためにはメーカーも20年先を見据え、フェンダーやバンパーなどのスペアパーツを提供できるよう態勢を整えておかなければなりません。 https://www.td-media.net/interview/tom-matano-vol-1/#page-link>

■注記

※このブログのレビューは あくまで個人的意見の相対評価

※このブログで「デザイン」は外装スタイリング(外観)のこと

※画像の出典

 https://www.mazda.co.jp/cars/roadster/design/

https://www.mazda.co.jp/beadriver/special/roadster_30th/history01/05/

https://www.mazda.co.jp/beadriver/special/roadster_30th/history01/02/

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