マツダ 3 ファストバック 2019 (B 75点)
オブジェのように美しい曲面だが、シルエットはモッコリ。いっそクーペと割り切れば
■まとめ (B 合計75点/100点満点)
マツダ 3は2020ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞したように自動車業界でデザインが大好評。特にハッチバックのマツダ 3 ファストバックが好評。しかし このレビューでは ちょっと違った評価だ。(おそらく自動車業界は新奇性等に着目し、ここでは用と美のバランス等に着目しているので、評価が分かれる)
マツダ 3 ファストバックはパーソナルユースに特化する戦略なのに、クーペとハッチバックの両方を狙ったデザインで どっちつかずの中途半端。クーペとして見ると、「ファストバック」と言いながらハッチバックのようなモッコリ丸まったルーフライン。ハッチバックとして見ると、閉塞感の強いキャビン。そしてハッチバックのキャビンにクーペの小さい窓なので斜め後方視界は最悪。
「色気のある塊」がテーマで、オブジェのように美しい曲面の造形は見事だが、シルエットがモッコリでは車のデザインとして今一つ。いっそアルファロメオ ブレラみたいな3ドアクーペと割り切れば、最高に魅力的なフォルムになったのでは。居住性を求めるボリュームゾーンにはSUVのマツダ CX-30で対応する訳だし。RX-8のような後席ドア観音開きでも良いかも。
昔のマツダ ユーザーにしてみれば、マツダ ファミリア アスティナやマツダ ランティスのように実用性と見た目(用と美)のグッドバランスを追求したハッチバックをデザインして欲しいが、「Car as Art」をスローガンにする今のマツダならば見た目優先のクーペだろうか。
■主な比較対象車
・メルセデス Aクラス (競合車)
・日産 フェアレディZ (参考車)
・アルファロメオ ブレラ (参考車)
■キャラクター
・ポジション、用途
2020 ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞したマツダ 3はマツダ アクセラの後継車。しかし直接の後継ではなく、ボリュームゾーンはCX-30に譲って、マツダ 3 ファストバックはパーソナルユースに特化する戦略らしい。
・ユーザー
ターゲット ユーザーは世の中の常識からの自由人のようだ。常識人は対象外か。
・デザイン要求
つまりパーソナルユースの新規モデルとしてユニークなデザインが求められる。
■コンセプト (25点/30点満点)
・テーマ、アイデア
「色気のある塊」がキーワード。艶やかな曲面で構成された美しいボディラインと一つの塊として躍動する力強いフォルムという意味らしい。
それを具体化すると、塊に見えるようにショルダーラインを なくし、艶やかな曲面となるようキャラクターラインをなくす「引き算の美学」だそうだ。最近のデザイン トレンドに沿っているが、このサイズでショルダーラインまで なくすのはチャレンジだ。(軽自動車やコンパクトカーでは良くあるが) (+5点)
引き算のデザインならば残るものが重要。車ならシルエットやフォルムだが、それらが何なのか不明確だ。マツダはコンセプトカーのRXビジョンとビジョンクーペでイメージを示しているが、いずれも古典的な大エンジンFRのプロポーション、ショルダーラインに頼ったフォルムなので、直接 参考にならない。
マツダ 3 ファストバックのアイデアスケッチはノーズが長く、リア オーバーハングが小さい、まるで日産フェアレディZ (6代目)等の3ドア クーペのようなイメージ。それが実車ではモッコリ ルーフのシルエットに なってしまった。アイデアスケッチが実際のアイデアになってない。(-5点)
・スタイル
マツダのデザイン スタイルをしっかり適用。ボディはエモーショナルな「魂動」。グリルは五角形の「5ポイント グリル」。フロントランプ周りは加飾の「シグネチャー ウイング」。
魂動とは生命感のある動きを表現することで、それをマツダ 3では引き算の美学で深化させて繊細な光の表現としたらしい。しかし引き算の美学にとって足し算の加飾は外乱になるので、シグネチャーウィングは蛇足だったのでは。例えば、魂動の進化を先取りしたマツダ ロードスターはシグネチャーウイングを適用していない。(-5点)
・パッケージング
先代と比べて全長と全幅は ほぼ同じ。全高を少し下げ、荷室容量も少し減った。この全高はハッチバックでは低めの方だが、メルセデス Aクラス ハッチバックよりは高い。クーペのようなワイド&ローを追求しておらず、パーソナルユース特化としては微妙。
■全体デザイン (15点/20点満点)
・プロポーション
長めのノーズに小さめのグリーンハウス。ハッチバックとしては不向きだが、パーソナルユースには合う。
ところで これは乗り味の話だが、「自分の足で歩いているように」という乗り味をアピールするマツダにしては、動きばかり注目して、視界を軽視しすぎでは ないだろうか。小さな窓から外を眺めていると とても歩いているような気分にならないない。
・フォルム
「ファストバック」という名前ならルーフを斜めに切り落としたシルエットを期待するが、実際は後席のスペースを考えたためかモッコリ丸いシルエットで期待外れ。グリーンハウスの平面絞りも弱く、リア側が視覚的に重たい。(-5点)
パーソナルユースならば もっと割り切りが必要だったのでは。例えば、3ドアクーペのアルファロメオ ブレラは似たようなサイズだが、ルーフからバンパーまで なだらかに下がるシルエットと絞りの強いグリーンハウスによってユニークで印象的なフォルムを作っていた。またマツダ RX-8のような5ドアクーペでも良いかもしれない。
■フロント (10点/20点満点)
・ランプ
マツダで ありがちな切れ長、奥目のランプは立体感がある。
・グリル
5ポイントグリルはメッシュでダークに見えるのはシックで良い。
ナンバープレートがグリルの中なのはジャマくさい。グリルの中に置くのは この車だけではないが。例えば、メルセデス Aクラスはアッパーグリルの外に置いていてスッキリしている。
・バンパー
グリルの横のシグネチャーウイングが「口裂け」のように見えて怖い。バットマンに出てくる悪役のジョーカーみたいだ。他のマツダ車と違ってシグネチャーが黒っぽいので、グリルと一体化して口裂けに見える。引き算の美学で加飾を なくせば良かったのでは。(-5点)
下側はチンスポイラーみたいな表現でボディの厚みを軽減。
・ボンネット
ボンネット上を強いキャラクターラインが縦断。伸びやかさには効果的だが、ラインをなくすテーマと不整合。またボンネットの前縁の角が尖って宙に浮いているので、チリが合わないように見える。(-5点)
例えば、Aクラスはランプやグリルの周りをボディ同色で囲っているので高級感がある。
・ウインドウ周り
フロントウインドウの面積が小さく傾斜が強いので圧迫感。パーソナルユースならタイト感として許容できるか。
■サイド (20点/20点満点)
・フェンダー、ドア
Cピラーからフェンダーフレアにかけて一体化し、なだらかな曲面は見事な造形でユニーク。狙い通り「借景」が映えて素晴らしい。(+10点)
ドアの凹凸面の抑揚も見事。フロント側からの凸面ピークが途中で曲がってリアタイヤを強調。ドアの下側にキャラクターラインが入るのはテーマと不整合だが、ボディの厚みを軽減する効果が大きく、下側で目立たないので許容されるか。
・ウィンドウ周り
窓が小さいので斜め後方視界が最悪。後席も開放感がない。幅広いCピラーによる見事な借景とのトレードオフだ。(-10点)
例えば、Aクラスもベルトライン高めでCピラー太いが、ベルトラインが水平に近いので視界はマシだ。
■リア (5点/10点満点)
・ランプ
マツダで ありがちな ふっくら横長ランプ。フロントランプのシャープさと あまり合ってない。
・バンパー
下側をブラックアウトしてボディの厚みを軽減。
・ハッチ
ルーフスポイラーをブラックアウトしてルーフを短く見せている。上手いと見るか、わざとらしいと見るか。
・ウィンドウ周り
窓が狭く、後方視界が悪い。(-5点)
■注記
※このブログのレビューは あくまで個人的意見の相対評価
※このブログで「デザイン」は外装スタイリング(外観)のこと
※画像の出典
https://www.mazda.co.jp/cars/mazda3/design/fastback/
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