まるで全長の長いクーペ。ユニークなFF車らしいフォルムで他車と差別
■まとめ (B 合計85点/100点満点)
海外でのモデルチェンジから約3年遅れで日本で販売開始されたホンダ アコード (10代目)は進化した走りの表現を目指して、ワイド&ロー、ファーストバックのプロポーション。キャビンが長いので、セダンらしい前後方向のスペースは確保されているが、低い着座位置を含めて、いうならば全長の長いクーペだ。
現代の日本ではスペースを優先するならミニバンやSUVが多数派。それらより背が低くいセダンは走り優先という位置付け。(ショーファードリブンでないドライバーズカーのセダンの場合は) それならばアコードのように思い切ってクーペ ルックにした方が「走り」というウリが明確だ。選択肢が多数ある現代では、ウリが明確でないと生き残れない。今後はセダンのクーペ化が さらに進むかもしれない。
アコードはクーペ ルックのプロポーションだけでなくフォルムもユニークだ。クーペ ルックの車はウェッジシェイプや後輪の強調で前進感を表現する場合が多い。アコードは逆に水平基調で前輪を強調。前輪に凝縮された力が後ろへ長く伸びていくようなイメージで、緩急のメリハリが効いている。FFで全長の長いクーペという特徴を上手く表現したフォルムで、他車と差別化できている。
海外で発売の2021年モデルでは日本モデルのフロントフェイスで微妙と思った箇所が修正されているのは さすが。
■主な比較対象車
・ホンダ アコード (先代)
・トヨタ クラウン (競合車)
・マツダ 6 (競合車)
・プジョー 508 (参考車)
■キャラクター
・ポジション
海外では2017年フルモデルチェンジされたセダン、新型ホンダ アコード (10代目)は約3年遅れの2020年日本で発売開始。日本モデルはバンパーやサスペンションのセッティング等が細かく変更されているらしい。海外では2020年にグリルやバンパー等が変更された2021年モデルを発売。日本モデルは周回遅れになったが、セダンが不人気な日本で発売されるだけマシか。
・用途
歴代アコードは「気もちの良い走り」が価値らしい。新型は走りのクオリティと空間のクオリティの進化を目指しているそうだ。
・ユーザー
歴代アコードはアメリカで「ユーザーの良心を表現」と言われるくらい良識的な車というイメージ。さらに新型は若い世代が憧れる大人なセダンがターゲット。
・デザイン要求
つまり気持ち良く走ることを大人らしく表現するデザインが求められている。
■コンセプト (25点/30点満点)
・テーマ
車のテーマは「ABSOLUTE CONFIDENCE(絶対的な自信、純然たる信頼)」。ユーザーの自信を高めるクルマという意味で、具体的には先代よりも車格が高く見えるクルマにしたい とのこと。車格はボディの体格という意味と品格という高級感という意味の両方が見られるが、ここでは どちらかと言うと後者の意味か。良識的なユーザー層に合っている。
デザインのテーマは「デザインコンセプトは、クリーン、スポーティ、マチュア」。このキーワードに沿ってデザインしたのではなく、スポーティな走りの表現としてデザイン案から選択する際の価値観を まとめたキーワード。後付けでもディテールの設計方針を明確にするのに役立つだろう。そのためには より具体化が必要。特に「マチュア」はプレミアム、シック、ゴージャス等の様々な解釈が可能なので もっと具体化すべきでは。 (-5点)
・アイデア
普通のデザイン作業とプロセスが違った。テストコースで先行試作車を試乗してから、そのスポーティな走りを表現しようとデザインしたらしい。最近の開発プロセス削減の風潮の中では面白い取り組み。
具体的にはサイドボディがタイヤに巻き付くようなイメージやサイドボディに光が流れることによるドラマチックな印象が狙い。その光はロサンゼルスのスタジオの屋外で約1ヶ月かけて確認したらしい。
・スタイル
フロントフェイスは先代に似ている。ホンダのデザインスタイルのグリルとヘッドランプが連続した「ソリッドウィング フェイス」の応用か。
・パッケージング
新型は先代に比べてワイド&ロー。全長を縮め、全幅を広げ、全高を下げた。スポーティな表現に即している。
さらにホイールベースを伸ばした。着座位置(ヒップポイント)を下げて、脚を伸ばして座るスポーティな姿勢。全長が長いのでキャビンの前後方向のスペースは確保されている。ホイールベースを伸ばしたのは車格(体格の方)の表現にも つながっている。
■全体デザイン (20点/20点満点)
・プロポーション
新型はロングノーズ&ショートデッキのクーペ的なプロポーション。先代に比べてFR車のようなプロポーションに近づいた。フロント オーバーハングを縮め、Aピラーを後方へ移動させて、ボンネットが長くなった。ボンネットの長さはスポーティな表現と前方視界の見切りに有利という判断。
ルーフラインは ほとんどファストバック。グリーンハウスは流線形っぽい伸びやかさ。窓の構成が4ライトから6ライトに変わって後ろに長く伸び、サイドウィンドウの傾き(タンブル)が大きくなった。トヨタ クラウン (15代目)もファストバックに近づいて6ライトに。プジョー 508は堂々とファストバックを名乗る。最近のセダンは後席の頭上スペースよりもスポーティな表現を優先する傾向だ。
・フォルム
フロントエンドが直立に近く、前輪付近に凝縮された視覚的マスがあり、そこから後ろへ伸びやかに流れていく、FF車らしく緩急のメリハリが効いたフォルム。
ボディの各所のキャラクターラインは折れ目が鋭く(曲げRが小さい)高品質感。特にサイドボディのラインは抑揚が強く、ボディ全体の伸びやかさを強調している。
■フロント (20点/20点満点)
・ランプ
先代に比べて薄型になりシャープさを増した。フロントランプは小さなランプが連続した構成で高品質感。
左右のランプの上とグリルの上部を つなげるメッキガーニッシュは微妙な大きさ。シックと言うには大きすぎ、ゴージャスと言うには小さい。それらの両狙いの どっちつかずに見える。例えば、日本はシック、中国等はゴージャスと作り分けてはどうか。
ちなみに海外の2021年モデルはグリルにメッキが増えたりしていて、よりゴージャス側へ振ったようだ。
・グリル
先代同様の逆台形だが、バンパーをブラックアウトして上下のグリルを一体に見せ、さらにヘッドランプにつなげている。ホンダは「シングルフレーム」と言っているが、 要素を少なく見せ、クリーンというテーマに合っている。
・バンパー
下部のランプ周りはサイドボディ側から前へ折り返して包み込むような形状。前からの流れを滞らせるようにも見えて微妙。
ちなみに海外の2021年モデルは包み込まないように修正されている。
■サイド (15点/20点満点)
・ルーフ
新型はルーフサイドのモールがなくなり、スッキリとクリーンになった。
・フェンダー、ドア
キャラクターラインでアイデアを表現。ショルダーのシャープなラインは高品質感と ともに光の反射を見せている。サイドシルからドアにかけてのラインはレリーフとも言うべき深さで、フロントタイヤへの巻き付きを見せている。この巻き付きはFFの力強さを表すユニークな表現。マツダ 6等のFFなのにFRっぽく後輪を強調する車も多いのに対して差別化できている。
フェンダーフレアは結構 張り出しているが、ラインの表現を損なわない なだらかでクリーンな形状。
・ウィンドウ周り
ベルトラインは水平基調で、ボディ全体の伸びやかさにマッチ。しかしベルトラインの後端に段差があるので、前からの流れが滞ってしまっている。この段差はピラーの位置やタイヤの中心から位置がズレているので、ルーフの荷重をタイヤに受け止めさせる表現にも なっていない。また この段差に合わせて窓のメッキモールが太くなっていて、段差を強調してしまっている。キックアップ等の ありがちな表現を避けたためだろうか。(-5点)
■リア (5点/10点満点)
・ランプ
リアランプはフロントランプと違って、コの字形状。周囲の面にもコの字になる必然性を示す表現が見られず、取って付けたような違和感。(-5点)
・バンパー
サイドボディから つながるラインはサイドからの流れが後ろへ抜けていく流線のような表現。リアまで伸びやかさが続いている。
・トランク
ショートデッキでトランクの開口部は狭いが、奥行は大きい。
■注記
※このブログのレビューは あくまで個人的意見の相対評価
※このブログで「デザイン」は外装スタイリング(外観)のこと
※画像の出典
https://www.honda.co.jp/ACCORD/webcatalog/styling/design/
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