空力の機能美は頑張ったが スバルらしくない「ジェネリック スポーツカー」
■まとめ (B 合計80点/100点満点)
スバル BRZ (2代目)は2022年に誕生10周年記念特別仕様車が発売初日に完売したほどの人気。
先代もユーザーの ほとんどが デザインを変更しなくてよい と言うほど 好評だった。だから先代デザインからの変更点は十分吟味する必要がある。そのうえで9年ぶりのモデルチェンジによる新鮮さも必要だ。
テーマは「凝縮」、「機能美」、「FRプロポーション」。これらはライトウェイトFRスポーツカーとしては基本中の基本。ここから どう応用して個性を出すかが問題だ。
機能美は主に空力デバイス強化によって実現。それにはスバルのエンジニアリングの寄与が大きかったらしい。特にフェンダーのエアアウトレットはライトウェイト スポーツカーでは珍しくて印象的。
FRプロポーションとしてはシルエットが先代踏襲なのでBRZらしく見える。メカや乗員を無駄なく包み込んだ いかにもスポーツカーらしいシルエット。
しかしディテールには疑問もある。例えば 先代でアイコン化(特徴を示す記号化)していた 愛嬌のある丸目とシャープな三角が同居したユニークなランプ形状を ありきたりな三角形へ変更。個性(ユニークさ)は薄まってしまって残念。
また スバルらしさという観点でも残念。フロントフェイスの一部を変えて、姉妹車のトヨタ GR86と差別化しているが、それだけではスバルらしく見えない。個性が弱くて まるで「ジェネリック スポーツカー」みたいな印象。
デザイン方法は共同開発のトヨタが先ずGR86のことだけを考えて企画・デザインし、その後にスバルがBRZのデザインを考える という方法で、スバルが不利だった。
やはりデザインの初期から スバルのデザイン スタイル「BOLDER」等のエッセンスを盛り込むべきだったのではないか。
■主な比較対象車
・スバル BRZ (先代=初代)
・スバル フォレスター (同門車)
・トヨタ GR86 (姉妹車)
・トヨタ カローラ レビン / スプリンター トレノ(AE86) (参考車)
・トヨタ ヤリス (参考車)
■キャラクター
・ポジション
2021年に9年ぶりのモデルチェンジをしたスバル BRZは最近では珍しい2+2シーターのライトウェイトFRスポーツカー。先代(初代)と同じくトヨタとの共同開発でトヨタ GR86と姉妹車。
今回のモデルチェンジはエンジンが強化されたが、プラットフォームが先代踏襲(キャリーオーバー)で1.5世代目という扱いのようだ。それでもボディを含めてデザインは すっかり変更されている。
・ユーザー
ユーザー層は先代と同様。若者、ミドル、シニアのカップルを想定しているらしい。
スポーツカーはドライバー1人というイメージもあるが、このクルマは複数人乗る想定で2+2シーターなのだろう。
先代ユーザーの調査結果によると9割くらいのユーザーはデザインを変えなくてよい という意見だそうだ。それだけ先代が気に入られているとするとモデルチェンジで何を変更するか十分気を付けないと。
・用途
絶対的な速さではなく、ハンドリング等の運転の楽しさを味わう感覚的なスポーツカー。
・デザイン要求
つまり スポーツカーらしいのは当然として、好評な先代のデザインからの変更点を厳選しつつ 久しぶりのモデルチェンジの新しさを表現するデザインが必要だ。
■コンセプト (20点/30点満点)
・テーマ
キーワードは「凝縮」、「機能美」、「FRプロポーション」。
・凝縮はキャビンなどを絞り込んでマスをセンターに集める。
・機能美はフェンダーのエアアウトレット等の空力機能。
・FRプロポーションはリアフェンダー張り出しを強調しリアタイヤが地面を捉える。
これらはFRスポーツカーとして基本中の基本。ここから どう応用して独自の個性を出すかが取り組むべき課題だが、そこまでテーマが辿り着いていない。(-5点)
・モチーフ
先代を分析して変える点と残す点を整理して サイドウィンドウのグラフィック等を先代から踏襲。
なお 先代開発のキッカケとなったトヨタ カローラ レビン / スプリンター トレノ(AE86)をオマージュしたりはしていない。
・スタイル
企画・デザインはトヨタが担当。先ずトヨタがトヨタ GR86のことだけ考えてデザインし、その後でスバルがBRZのデザインを考える という方法。
その結果 スバルのデザインはフロントフェイスの一部変更だけになり、スバルらしさが不十分になってしまった。
やはり初期からトヨタと しっかり協議して スバルのスタイル「Dynamic × Solid」や「Bolder」のエッセンスを盛り込んでもらわないと クルマ全体をスバルらしく出来ないのでは。(-5点)
・「Dynamic × Solid」は愉しさを感じさせるダイナミックな躍動感と安心をイメージさせるソリッドな塊感の表現方法。スバル(六連星)等を意味する六角形(ヘキサゴン)や水平対向エンジンのピストンをイメージする「コ」の字等がモチーフ。
・「Bolder」はDynamic × Solidをさらに大胆に強調する表現方法。スポーツ等の車の用途によって強調の仕方が異なる。
・パッケージング
プラットフォームは先代からキャリーオーバー。座席レイアウトの2+2も踏襲。サイズも ほとんど変更なし。それでも重心は少し下がったそうなので スポーツカーらしい努力だ。
■全体デザイン (20点/20点満点)
・プロポーション
先代踏襲のロングノーズ、ショートデッキのシルエット。ルーフラインも先代同様。ホイールベース中央の前席をピークにしてストレートに下がったファストバックのルーフラインは2+2では珍しく、ユニークな表現。後席スペースは先代よりも割り切っているように見える。
・フォルム
全体はプロポーションを なだらかに覆った素直なフォルム。素直なだけにユニークさは弱め。また 全体的に丸みを帯びているのでボリューム感はあるが、スポーツカーとしては脂肪率が高そうに見えて微妙。
サイドボディには前後に水平にピークを通して体幹の強さを表現。
上屋(グリーンハウス)を小さくし、フロントランプを引っ込めて凝縮を表現
フェンダーフレアを大きく張り出して機能美やFRプロポーションを表現。
■フロント (10点/20点満点)
・ランプ
先代は愛嬌のある丸目とシャープな三角が同居したユニークな外形状でアイコン化(特徴を示す記号化)していたが、新型は ありきたりな三角形へ変更。キレイなスポーツカーらしいカタチだが、BRZらしいユニークさは薄まってしまって残念。(-5点)
ランプの内部はスバルらしく水平対向エンジンをモチーフにした「コ」の字にしてGR86と差別化しているが、全体の印象を左右する ほどインパクトはない。
・グリル
グリルはGR86から変更し、上下を狭く、左右を広くして低重心感を表現。
形状はスバルのスタイル「ヘキサゴン グリル」の六角形だが、上側が小さいので遠目には逆台形に見え、スバルらしさが弱い。それは先代も同様だった。
ヘキサゴン グリルはダイナミック(躍動感等)とソリッド(安心感等)の比率によって六角形の上下の比率を変えているが、BRZはスバル フォレスターのような下側が大きい安心感の形状。BRZは やはり上側の大きい躍動感でないと合わない。(-5点)
・バンパー
バンパーもGR86と別。ノーズ先端に厚みがあって塊感。チンスポイラーはブラックアウトして顔の厚みを軽減して見せている。
エアインテークはタイヤハウス内の空力に効果的。その外側の「鮫肌」テクスチャーもボディ側面の乱流に効果があるらしい。
・ボンネット
フェンダー側を盛り上げて立体感。前方見切りにも効果。
面の凹凸とラインが折り重なっているのは冗長感もあって微妙。
■サイド (20点/20点満点)
フロント フェンダーのエアアウトレットが印象的。ライトウェイト スポーツでは珍しく空力的にも実用的。機能美の表現。(+5点)
リア フェンダーは後輪駆動を表現する大きな張り出し。さらにラインで強調。
フロントフェンダーのフェンダーアーチ脇にウィンカーを付けているのは先代踏襲。しかし せっかくの滑らかな面に取って付けたような違和感。ここは先代を踏襲しなくて良かった点では。(-5点)
・ドア
サイドシルにキックアップするカタチのサイドシル スポイラー。サイドボディの空気の渦を制御する効果と共にサイドボディのアクセントとしての意味もあるのだろう。
・ウィンドウ周り
サイドウィンドウのグラフィックは先代を踏襲。
Aピラーはフェンダーと切り離して上屋(グリーンハウス)を小さく見せて凝縮感。
斜め後方視界は良いとは言えないが、スポーツカーなら仕方ないか。
■リア (10点/10点満点)
・ランプ
フロントランプと同様に先代のユニークな形状を捨てて ありきたりな三角形。内部形状は 水平対向エンジン モチーフの「コ」の字と言うより、ありきたりな「フ」の字。トヨタ ヤリス等で見たようなカタチ。 スバルらしさが薄まって微妙。
・バンパー
ナンバープレートが先代のトランクから新型ではバンパーへ移動して低重心感。
おかげでディフューザーは中央が凹んだ形状に。
・トランク、ウィンドウ周り
先代では目立たなかったダックテールが新型では大型化。これも空力の機能美。
ダックテールにストップランプを付けたのはリアウィンドウの大きさと後方視界への配慮らしい。
■おまけ (デザインクリニック提案)
例として レビューで気になる点について 見直し案を提案する。テーマは「スバルらしく」。つまりスバルのデザイン スタイル「Bolder」等の適用。
「Bolder」のアイデアは以下の通り。
・(前後に)軸の通った(ボディ中央の)デザイン
・ヘキサゴングリルから始まる強い塊感のあるボディデザイン
・(角ばったカタチの)特徴的なフェンダーデザイン
リファイン案の主なポイントは以下の通り。
・シルエットは ほとんど変更なし
BRZの特徴的なシルエットは そのままキープ
・フロントフェイスやフォルムは「スバル化」のため少し見直し
グリルはスバルの「ヘキサゴングリル」としてハッキリとした六角形に
ランプは先代のアイコンのランプ形状をアレンジしてスバルの「ホークアイ」に
スバルのデザイン スタイル「Bolder」に合わせて、
前傾姿勢のベルトラインとサイドボディのキャラクターライン
特徴的な台形のカタチで大胆に張り出したフェンダーフレア
・新型の特徴である空力デバイスをさらに強化
サイドボディの空気流に渦を発生させるカナードを追加
■注記
※このブログのレビューは あくまで個人的意見の相対評価
※このブログで「デザイン」は外装スタイリング(外観)のこと
※画像の出典
https://www.subaru.jp/brz/brz/design/exterior
https://www.subaru.jp/brz/brz/grade/grade#grade2
https://www.subaru.jp/brz/brz/driving/package
https://www.chubu-jihan.com/subaru/news_list.php?page=contents&id=463&block=2
https://www.subaru.jp/brand/technology/design/
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