カッコで一目ぼれしても最悪の乗降り性で すぐ冷めそうな「量産コンセプトカー」
■まとめ (C 合計70点/100点満点)
トヨタ プリウス (5代目)は 「Hybrid Reborn」をキーワードに 従来の環境車(エコカー)の普及という目的から ハイブリッド車の「走る楽しさ」の普及という目的へ変更。バッテリー電気自動車(BEV)に負けない加速性能を追求した。
デザインのキーワードは「愛車」。一目ぼれさせるカッコ良さ等の意味。
そこで全高を先代に比べて少し下げ、フロントウィンドウをボンネットと一直線に見えるほど寝かせた。これがインパクト絶大。注目を集め、一目ぼれする人も多そうだ。
背の低さはセダンでは普通だが、窓が寝たせいでドア開口が低くなって乗降り性は最悪。一目ぼれした人も すぐに冷めそうだ。
これだけフロントウィンドウを寝かせたにも関わらず 空力性能のCD値(抗力係数、面積等の割に空気抵抗=ドラッグの大きさを示す)が先代より大幅に悪化。例えば 比較されそうなBEVのテスラ モデル3やハッチバックのメルセデスベンツ AクラスよりCD値が大分悪い。
CD値は燃費だけでなく高速性能にも効く。自動車メーカ各社が空力性能を向上させているのに反して悪化させたのはトヨタの技術力やハイブリッド車の逆宣伝になってしまって残念。
つまり 見栄え優先のコンセプトカーから量産化する際に 普通は修正する実用性や空力性能を修正しないまま市販してしまったようなもの。言わば「量産コンセプトカー」。
少数販売のスポーツカーなら見栄え優先で実用性等を無視しても許されるだろうが、プリウスはハイブリッド車の普及を目的にした量販セダンなので許されないだろう。見た目だけの意匠デザインで「スカしたカッコつけ」というイメージが付かないか心配だ。
ディテールでもグリルがBEVのトヨタ bZ4Xみたいに小さいので大出力エンジンを表現できていない。BEVのように見せたい というコンプレックスなのだろうか。
新型はコンセプトカーのような見栄えで注目を集めているが、新たなハイブリッド車の普及という目的のためには 量産車らしく実用性や空力性能を考慮したうえで 新たな価値である大出力エンジン等を表現すべきではないだろうか。
■主な比較対象車
・トヨタ プリウス (歴代)
・トヨタ クラウン クロスオーバー (同門車)
・トヨタ bZ4X (同門車)
・メルセデスベンツ Aクラス (競合車)
・テスラ モデル3 (競合車)
■キャラクター
・ポジション
2023年フルモデルチェンジしたトヨタ プリウスは初代誕生以来の環境車(エコカー)=ハイブリッド車を普及させる という目的をゼロリセット。 「Hybrid Reborn」をキーワードに ハイブリッド車の新たな「走る楽しさ」の普及が目的。
ハイブリッド車が普及した現在に 初代プリウス開発時の目的である「21世紀の車」を踏襲するなら EV (電気自動車)にする選択肢もあっただろうが、ハイブリッド車に こだわった。
開発に先立ってトヨタの社長の提案は「タクシー車」だったが、開発チームが反対して こうなったそうだ。先代では社長から新奇性を求められたのに従ってデザインが二転三転したのと対照的だ。
・ユーザー
特定の層ではなく、なるべく多くの人。
・用途
環境に良い低燃費はキープしたうえで バッテリー電気自動車(BEV)に負けない加速等の感性に訴えかける走り。
ハイブリッド車ならBEVの優れた加速性能に張り合うより 軽量さを活かした旋回性を特長(ウリ)にした方が似合うと思う。
しかし先ずは「加速の遅いエコカー」というイメージの払拭(ネガ消し)が必要なのだろう。
・デザイン要求
つまり燃費の良さに加えて特に走行性能が良いことを示す新鮮なデザインが必要だ。
■コンセプト (25点/30点満点)
・テーマ
キーワードは「愛車」。一目ぼれさせるスポーツカーのようなカッコ良さ、長く愛される普遍的な美しさ という意味らしい。
違う言い方では 「見る楽しさ」。(新型の目的「走る楽しさ」と対句)
しかし この目標は要注意。「見る楽しさ」が独り歩きし、コンセプトカーみたいに見栄えだけの意匠デザインを優先して 新型の加速性能の表現や空力性能、実用性等の量産車としての要件を置き去りにしてしまった。(-5点)
・アイデア
歴代プリウスの特徴であるモノフォルムの追求。
低車高と大きなタイヤでスタイリッシュなプロポーション。
・スタイル
フロントフェイスは最近のトヨタのスタイル「ハンマーヘッド」。目が横に突き出したシュモクザメのことだろう。
・パッケージング
サイズは先代に比べて全長、全幅、ホイールベースが大きくなり、全高が小さくなった。全高が低くなった と言っても 1400mm代なので セダンやハッチバックでは一般的な高さ。特に低い訳ではない。
ヒップポイントは先代に比べて前後席ともに低くなり、脚を伸ばして座るスポーツカー的ポジション。ホイールベースは伸びたが、前後席の間隔(タンデム ディスタンス)は ほとんど伸びてない。
室内高は先代より低くなったので シートバックを先代より寝かせているが、頭上に圧迫感ある。それも「走り」優先のクルマなので仕方ないか。
後席の頭上の圧迫感はオプションのパノラマルーフにすると心理的に軽減されるかも。(最上級グレードのオプションだが)
■全体デザイン (15点/20点満点)
・プロポーション
ルーフラインは歴代と同様の山なりカーブ。ピークの位置はBピラーの後ろで 3代目と同様の位置。先代に比べると Bピラー以前のルーフを かなり低くした。
前後の窓の傾斜は強烈。特にフロント ウィンドウとAピラーは ボンネットと ほぼ一直線に見えるほど傾いていてインパクト大。一目ぼれする人が多そうだ。(+10点)
しかし窓の傾斜に合わせたドア開口が狭く、乗降り性が最悪。乗降りで ちょうど頭の通過する位置の開口が低いので頭をブツけそうになる。
スポーツカーに慣れた人なら許容するかもしれないが、多くの人に乗ってもらうという目的に合わない。一目ぼれした人も すぐに冷めそう。(-10点)
つまり見た目と実用性で相殺。スポーツカーのようなカッコ良さを目指したとしても量販車であることは変わらない。やり過ぎは禁物。
・フォルム
全体的に滑らかな曲面フォルムで キャラクターラインやレリーフは少なめ。キャラクターラインとレリーフだらけだった先代とはガラッと変わった。
新型はカッコ良さを優先し空力設計を置き去りにしたせいか、空力性能のCD値(抗力係数、面積等の割に空気抵抗=ドラッグの大きさを示す)が先代より悪化していて残念。
歴代プリウスはモデルチェンジ毎にCDを改善してきたが、新型は初めて悪化。それも海外報道によると大幅な悪化。環境性能をキープする方針に反している。
CDは燃費だけでなく高速性能にも効く。自動車メーカー各社が空力性能を向上させているのに反して 悪化させたのはトヨタの技術力やハイブリッド車の逆宣伝だ。(-5点)
CDが良いのはスポーツカーやBEV専用車に限らない。例えば メルセデスベンツ Aクラスは普通のハッチバックながら先代プリウスよりCDが良く、Aクラス セダンなら さらに良い。
・カラーリング
大人っぽいスポーティさの表現ため新色の彩度が高くないイエロー「マスタード」と暖かい色のグレーマイカ「アッシュ」を追加。
■フロント (15点/20点満点)
・ランプ
「ハンマーヘッド」スタイルの表現で「コ」の字形のデイライト(ウィンカー兼用)。ヘッドランプは ボンネット下側の やや奥まった位置。
ハンマーヘッドはトヨタ bZ4Xやトヨタ クラウン クロスオーバーに適用されたが、それらはボンネット上のラインだけだった。新型プリウスはランプ形状が「コ」の字なので ハンマーヘッドにする理由になっている。
・グリル、バンパー
フロントの下側に面積の小さな横長グリル。まるでBEVのbZ4Xみたいで 大出力エンジンのパワーを表現できていない。BEVのように見せたいというコンプレックスなのだろうか。(-5点)
しかもグリルの周りを銀色メッキで大きく縁取りして前へ突き出して目立たせている。その両脇に細長くて黒いガーニッシュ。シンプルなバンパーに対して唐突で 悪目立ち。ナマズの口とヒゲとか掃除機の吸込みノズルとか言われそう。
・ボンネット
ボンネットはドライバーから全然見えず 前方見切りには役立たない。
・ウィンドウ周り
Aピラーが顔に近いので右カーブ等で視界にカブって気になる。
■サイド (15点/20点満点)
・ルーフ
シャークフィン アンテナがルーフ面に滑らかに接続されているのはシャレている。
上屋(グリーンハウス)の後方が絞り込まれているのでフェンダーフレアが大きく張り出して見える。
ホイールアーチ周りに黒いガーニッシュ。大径タイヤを さらに大きく見せている。
・ドア
サイドシルからドアにかけて斜めに深いレリーフ。前輪側と後輪側を区分けする意図らしいが、機能的な意味はないので デザイナーの単なる「遊び」に見える。ユーザーにとっては まるで側溝に落ちてサイドシルが凹んだように見えて強度感を損なっている。(-5点)
・ウィンドウ周り
リアドアのドアハンドルがピラーに埋め込みされて 3ドアのようにスッキリと見せている。
斜め後方視界は良いと言えないが、ドアミラーのブラインドモニターが有れば問題なさそう。
・タイヤ、ホイール
見栄えのために19インチを採用。大径にした代わりにタイヤの幅は狭くして 特殊なタイヤ サイズになった。そのホイール形状も見栄えはするが、走りにも空力にも機能的でない意匠的デザインで微妙。
レス オプションの17インチの方が燃費、乗り心地、価格等のバランスは良さそう。
■リア (0点/10点満点)
・ランプ
最近 流行りのシンプルな横一直線のランプ。ランプの上下は黒いガーニッシュで強調。その両端が垂れ下がるのは先代前期と似ている。その垂れ下がりが不評のため先代後期のマイナーチェンジで修正したことを忘れたのだろうか。(-5点)
・バンパー
フロント側のグリル等と同じようなカタチのレリーフ。前後の統一感は あるが、ディフューザーのような空力処理をしないのは最近の空力向上トレンドに反していて微妙。
・ハッチ
車名を間隔の空いた文字で表示。クラウン クロスオーバーと同様のトヨタとしては新しい表現。
・ウィンドウ周り
先代まで有った下側のサブウィンドウが無くなり 後方視界が狭い。水平な道路で なんとか後続車が見える程度。スポーツカーならセーフでも、量販セダンではアウト。(-5点)
デジタル インナー ミラーが付けばカバーされるが、最上級グレードのセット オプションだけなのでイマイチ。(デザインのせいではないが)
■おまけ (デザインクリニック提案)
例として レビューで気になる点について 見直し案を提案する。テーマは「コンセプトカーから量産車へ」。意味は実用性(乗降り性、視界等)と空力性能(ドラッグ、ダウンフォース)の向上。
さらにハイブリッド車の新しい価値(加速性能)を示す大出力エンジンのパワーも表現。
リファイン案の主なポイントは以下の通り。
・実用性や空力性能のためプロポーション等を少し変更
ドア開口の上辺を広げて乗降り性を向上
ボディコーナーを角ばらせてドラッグを減少
グリルを広げ、フェンダーフレアを強調して大出力エンジン車を表現
(空力のたグリル内部でエンジンルームへ流入する空気流量を調節)
(フェンダーフレアのラインはボディ上部とサイドの空気流を分離・整流する効果も)
・さらに空力性能と視界のためディテールを変更
グリル、ドアハンドル、フェンダー等をフラッシュサーフェイス化
右前方視界のためAピラーを曲げつつ少し角度を立てる
後方視界のため先代までのサブウィンドウを復活
■注記
※このブログのレビューは あくまで個人的意見の相対評価
※このブログで「デザイン」は外装スタイリング(外観)のこと
※画像の出典
https://global.toyota/jp/mobility/toyota-brand/toyota-design/prius/
https://kinto-jp.com/kinto_one/lineup/toyota/prius/
https://toyota.jp/prius/grade/?padid=from_prius_design_navi-menu_grade