ヨーロッパで試した「黒豆」モデルに比べて、実車は間延びして凝縮感が薄れた
■まとめ (C 合計60点/100点満点)
トヨタ ヤリスはヨーロッパで映えることを狙って、「黒豆」をモチーフに凝縮感がテーマ。
それがヨーロッパの街並みで どう見えるか、 小さなコンセプトモデルを作って、実際にイタリアやフランスへ行ってリサーチした。(そんなリサーチ楽しそうで、一緒に行ってみたいものだ)
このコンセプトモデルは いかにも黒豆っぽいプロポーション。フォルムの抑揚が強調されて凝縮感タップリ。その後のアイデアスケッチも全長が短い(まるで2シーターのような)プロポーションで力強い。
ところが実車になると、トヨタ ヴィッツの全長拡大の傾向を引き継いで、ヴィッツ(3代目 前期)よりもさらに全長が伸びてしまった。ヨーロッパでのパーソナルユースを狙って、キャビンのスペースは重視していないのに。
結局、全長が伸びたプロポーションのため、テーマの凝縮感が薄まってしまった。アイデアスケッチと実車のプロポーションが全然違うのは いかがなものか。
また国内モデルの5ナンバーサイズを意識して、フォルムの代わりにディテールで目立たせようと、レリーフやキャラクターラインの多い冗長なデザインになってしまった。
例えば、プロポーションを見直せば、よりシンプルで凝縮感のあるデザインになったかもしれない。
■主な比較対象車
・トヨタ ヤリス GR (姉妹車)
・トヨタ アクア (同門車)
・ホンダ フィット (競合車)
■キャラクター
・ポジション
2020年新発売のハッチバック、トヨタ ヤリスはトヨタ ヴィッツ(3代目)の後継車。(海外ではトヨタ ヤリスとして4代目) 日本モデルと欧州モデルはサイズが違う。欧州は日本よりワイド&ロー。
グローバル ブランドに合わせて名称変更。ヤリスはWRCに出ていて、カーレースのイメージでブランディングしたい らしい。
・用途
ヨーロッパでのコンパクト ハッチバックの使われ方としてパーソナルユースが主。
また良好な燃費、軽快な走り、コンパクトなサイズ、コンパクトのわりに良い乗り心地が特徴らしい。
・ユーザー
メインターゲットは若い女性らしい。もちろん女性に特化するのではなく、ユニバーサル狙い。それにしても女性に対してカーレースでブランディングに なるのだろうか。
・デザイン要求
つまり前席優先でコンパクト感と走りの良さを表現するデザインが求められる。
■コンセプト (20点/30点満点)
・テーマ
「B-Dash!」がキーワード。これは「BOLD(大胆)」、「BRISK(活発)」、「BOOST(加速)」、「BEAUTY(美)」、「BULLET(弾丸)」のBをまとめたもの。ずいぶん盛りだくさんなテーマだが、要するに 無駄を削ぎ落とし、キャビンからタイヤにかけて力が凝縮された造形 という意味らしい。
・モチーフ
「黒豆」がモチーフ。小さく、美味しく、ふくよかでツヤがある という意味らしい。確かにテーマに合っている。
・アイデア
ヨーロッパで見栄えするには力強さや艶やかさが必要と考え、黒豆モチーフを元にして塊を盛っていくというアイデア。アイデアスケッチは2シーターのように小さなキャビンやEVのように小さなエンジンルーム、そこから大きなタイヤが四隅に大きく張り出していて、非常に力強い。
しかしコンパクトカーはサイズの制約が強いため、足し算のデザインは要注意。結局、実車はデザイン代(しろ)が足らないので、アイデアに比べてタイヤの張り出し等のフォルムの抑揚がイマイチ。代わりにディテールで抑揚を見せようとして必然性のないデザインになってしまった。
特にコンパクトカーはアイデアスケッチ時点から、プロポーションを十分意識する必要があるのでは。(-5点)
・スタイル
フロントフェイスは、トヨタのデザインスタイルである「キーンルック」と「アンダープライオリティ」を適用。トヨタ アクア(後期)に似ている。
最初のデザインは もっと可愛い顔だったそうだ。その方が黒豆には合いそうだし、女性ユーザーも含めて万人受けしそうだ。
顔のデザイン変更は「1000枚スケッチ」というくらい大量のスケッチを描いて検討したらしい。その結果が結局アクア似というのは不思議だ。もしかして「普通恐怖症」で奇抜なものを たくさん考えたが、結局無難なアイデアに戻ったのだろうか。アクアに似てても別に悪くないが。
・パッケージング
先代のヴィッツ(3代目 前期)に比べて全長とホイールベースが伸びた。全幅と全高は同じ。ヴィッツは歴代みんな全長が長くなっていっている。新型はパーソナルユースのコンパクトカーとしてスペース拡大は もう十分という判断だったはずが長くなった。
結局、キャビンが広いと評判のホンダ フィットと同様のサイズ。コンパクトさで競合車と差別化しにくい。それに凝縮感や無駄をなくすテーマに反している。(-5点)
前席の着座位置は、先代より低く、後退している。スポーティな座り方をさせようとしているようだ。トヨタ ヤリス GR のようなスポーツモデルなら分かるが、普通のハッチバックで それをやると、特に小柄な人の視界が悪化するので要注意。
■全体デザイン (10点/20点満点)
・プロポーション
先代に比べて窓の傾斜が強く、ルーフが かなり短くなった。フロントウィンドウは後ろに移動。リア側はファストバックのように全体が斜めに。
逆に言うと、ルーフに比べてボンネットやラゲッジルームが長く、凝縮感を損なっている。キャビンを小さく見せるなら、他も凝縮しないと。もしかして凝縮のテーマより旧来のワイド&ローを狙ってデザインしたのだろうか。(-5点)
・フォルム
黒豆モチーフらしく、全体的に なだらかな曲面で覆われている。シルエットは比較的シンプル。アイデアスケッチは もっとメリハリが効いていたのだが。
その所々にシャープなキャラクターラインやレリーフが入って、塊の肉盛りを表現。それにしてもキャラクターラインが多い。ラインが多いと面を細切れにして塊感を損なうし、最近のカーデザインのトレンドに合っていない。
例えば、キャビン後端の横を もう少し内側に絞るとか、面の抑揚を活かせばラインを もっと整理できるはずでは。(-5点)
■フロント (15点/20点満点)
・ランプ
キーンルックの表現で、切れ長ツリ目の外形状。アクアに似ていて新鮮味はない。上面にキューブパターンの柄を入れているらしいが、パッと見で分からない。
・グリル
アンダープライオリティの表現で、アクアと同様のアイデア。下顎をブラックアウトした大きなグリルで両端をボディ同色で支えている。アクアより曲線的だが、特に新鮮味はない。
・バンパー
グリルの横のガーニッシュで面が えぐれ、フェンダーフレアの延長が角張って外に張り出し、凸凹が目立つ。必然性がなさそうだし、全体フォルムが曲面的なので違和感。黒豆モデルはもっと自然な形状だったのに。(-5点)
・ボンネット
流れを表現するためか縦にラインが2本。面に抑揚がないので、塊を盛るというより面が細切れに見えて微妙。
・ウィンドウ周り
先代に比べてAピラーが後方移動し、前方視界は改善したようだ。
■サイド (10点/20点満点)
・ルーフ
ボンネットから続くようなキャラクターラインが2本。
・フェンダー、ドア
フロントフェンダーからドアにかけて後ろ下がりのキャラクターラインは後輪を強調するFRっぽいデザイン。デザイナーは「カウンター ウエッジ」と呼んでいて、リヤフェンダーから前方へ せり上がっていくイメージだそうだ。しかし普通の人は前からの流れで見るため、せり上がり というより 垂れ下がりに見える。
大きめのフェンダーフレアの周囲にレリーフを入れて、さらにフレアを強調。国内モデルは5ナンバーで全幅が狭いため目立たせようとしたのだろうが、頑張り過ぎで冗長。塊を盛るアイデアなのに、逆に凹ませていて不整合。特にリアのレリーフはフロントから後輪へ向かう流れを ぶった切っている。(-5点)
・ウィンドウ周り
ベルトラインが後ろ上がりなのは先代同様だが、新型は さらに後席でキックアップ。Cピラーも細くないため、斜め後方視界がイマイチ。そしてベルトラインの延長線上でCピラーにレリーフを入れるのは冗長感。(-5点)
・タイヤ、ホイール
■リア (5点/10点満点)
・ランプ
リアランプの間をガーニッシュで つなぎ、さらにリアウィンドウも つなげたユニークなデザイン。
ただサイドボディにランプの尖った角が食い込んでいるのは頑張りすぎ。サイドボディに切れ目が入ったみたいに見えて塊感を損なっていてる。(-5点)
・バンパー
ディフューザーのようなガーニッシュで軽快感。
・ハッチ、ウィンドウ周り
曲面的な形状で後席のヘッドクリアランスに配慮。後方視界は微妙。
■注記
※このブログのレビューは あくまで個人的意見の相対評価
※このブログで「デザイン」は外装スタイリング(外観)のこと
※画像の出典
https://toyota.jp/yaris/feature/?padid=from_yaris_navi_feature
https://toyota.jp/yaris/gallery/?padid=from_yaris_navi_gallery
https://toyota.jp/yaris/?padid=from_yaris_navi_top
https://toyota.jp/news/yaris-sp/09/
https://global.toyota/jp/newsroom/toyota/29933689.html
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