「素うどん」で直線番長ぽいプロポーション。もっとビジョンクーペぽくならない?
■まとめ (C 合計70点/100点満点)
マツダ CX-60は新開発の直列6気筒エンジン(直6)FRのSUV。(4WDもある)
マツダ待望の直6 FRなので 今までのFF SUVとの機構やパッケージングの違いをハッキリ見せる表現に注力。言わば 素材の味で勝負する「素うどん」。
しかし「味付け」(デザイン スタイル)は今までと あまり変わらないので 新鮮さがないし、直6FRを極端に強調したため 絶壁のように平たい大顔、重尻、後輪に比べて弱い前輪の踏ん張り感(スタンス)等のマイナスも生じている。
まるで直線加速だけ速い大エンジン車(直線番長)みたいなプロポーション。操縦性が特長のマツダ車なのに見た目が そう見えないと もったいない。(アメリカに限れば直線番長ぽいのはプラスかもしれないが)
また 味が足らないと思ったのか、ガーニッシュやダミーのエグゾーストパイプ等の「薬味」(加飾)を足して余計な雑味が出ている。
やはり素材が変わったら新鮮さを出すためにも味付けを変えた方が良かったのでは。
例えば 直6 FRの老舗であるメルセデスベンツやBMWのSUVはマイナスを軽減する手慣れた味付けだ。
味付けの変え方としてはマツダの理想像であるコンセプトカーのビジョンクーペが目標か。例えSUVでもビジョンクーペのスリーク(滑らか、伸びやか)な表現のエッセンスは取り入れられるはず。マツダの言う「しなやかな走り」にも合うし、新鮮さがある。
■主な比較対象車
・マツダ CX-50 (同門車)
・BMW X3 (競合車)
■キャラクター
・ポジション
2022年発売のミッドサイズSUV マツダ CX-60は新開発の大型エンジンである直列6気筒エンジンを搭載し、後輪駆動を基本とするマツダのラージ商品群の皮切り。新アーキテクチャの初の御披露目として新鮮さをアピールすることが必要だ。
またラージ商品群は高価格帯のグレードもあるため上質さの表現も重要だ。
・用途
直6FRの特長を活かした「走る歓び」が狙い。居住性や積載性等は今後発売されるラージ商品群のモデルに任せているのだろう。
・デザイン要求
つまり直6FRの機構的な特長や操縦性の良さを表現し、新鮮で上質なイメージを与える新しいデザインが必要だ。
■コンセプト (25点/30点満点)
・テーマ、スタイル
キーワードは「ノーブル タフネス」。SUVらしい力強さとマツダのデザインスタイル「魂動」の融合だそうだ。魂動は滑らかで有機的な曲面による「引き算」のデザインが特長。それと力強さが矛盾しかねないので あえてキーワードを掲げたようだ。CX-60は高価格帯なので 「ノーブル」をテーマに上質なデザインを目指すのは分かる。
しかしデザイン結果を見ると加飾等による「足し算」のデザインが目立つ。上質さを目指す「 ノーブル」の方の意識が足らなかったのでは。(-5点)
・アイデア
直6FRの「骨格」を強調するアイデア。「骨格」とはエンジンの大きさと搭載位置によるパッケージングや後輪駆動の機構のことだろう。ただし極端になるととアンバランスになるので要注意。
・モチーフ
マツダ CX-5と同様にチーターがモチーフ。チーターの後脚で大地を蹴る様子と後輪駆動は共通性があるらしい。
・パッケージング
直6FRが室内スペースに影響するのは仕方ない。 エンジンをフロント ミッドシップ気味に搭載しているので、ミッションを小型化しても室内への干渉は それなりに大きい。
外形サイズはCX-5に比べて全長、全幅、ホイールベースが大きく、全高は ほぼ同じ。それでいて室内サイズは ほぼ同じなのでスペース効率は良くない。それでも外形と室内の差分でボディの抑揚に使えるデザイン代は増えたはず。
またミッション等との干渉のためカップル ディスタンスが広げられ、乗員はサイドウィンドウ側へ寄せられている。
■全体デザイン (10点/20点満点)
・プロポーション
直6FRらしさをハッキリ強調するプロポーションはアイデアの通り。それによるマイナスは あまり考慮されていないようだ。
直6の大エンジンらしさはノーズ先端まで分厚いロングノーズで表現。ノーズの大ボリュームは車格の見栄えがする。平面的なボンネットからの流れでベルトラインは ほぼ水平に伸び、FF SUVと同様にDピラーでキックアップ。
エンジン搭載位置が後方に寄るFRらしさは短いフロント オーバーハングや前輪からドアまでの間隔(プレミアム ディスタンス)の長さで表現。
前輪が前へ行った代わりに長くなったリア オーバーハングはSUVの分厚いボディとDピラーのキックアップも合わさってボリュームが大きく見える。Dピラーでのキックアップはリア側の荷重を前へ流れるように見せたい という意図らしいが、ボリュームが大きく見える効果の方が大きい。
このプロポーションのため フロント フェイスが絶壁のように平面的な大顔になったり、鼻先が重そうで操縦性が悪そうだったり、後ろに荷重かかって頭上げ(スクワット)しそうに見えたりする。
言うならば直線加速だけ速い大エンジン車(直線番長やまっす)みたいなプロポーション。実際の操縦性は良くても見た目が そう見えなくて残念なパターン。(-5点)
直6FRの強調を もう少し控えるか別の表現でカバーした方がバランスの良いデザインになったのでは。
例えば、同様に直6FR SUVのBMW X3は ノーズ先端を下げたり、フロント オーバーハングに余裕を持たせたり、サイドウィンドウをリア側まで伸ばしてリア オーバーハングのボリュームを軽くしたりして直6FR SUVのマイナスを軽減している。
CX-60もデザインの前に色々なシルエットを比較検討したそうだ。その時はCX-5後継車という前提だったので 結局CX-5と似たようなシルエットを選んだ。もしCX-5併売という前提なら もっと新しいシルエットにチャレンジできたはずなので残念。
・フォルム
直6FRらしさの強調で平面的なプロポーションのため 「魂動」の有機的曲面の特長やSUVらしい力強さを十分表現できていない印象。
例えば フロント コーナーを丸めて平面顔の対策をしているが、大顔に見せたい意図と矛盾してサイズ的に厳しい。
後輪駆動を強調する表現として後輪付近で盛り上げた有機的曲面は効果的。しかし前輪付近は前後に流れる曲面で踏ん張り感(スタンス)がないため 4WDもあるのにSUVらしい力強さが弱い。(-5点)
例えば 全幅が近いマツダ CX-50ほどでないにしても 前輪側で もっとスタンスを表現した方が良かったのでは。
・カラーリング
新しいホワイト カラーのロジウムホワイトプレミアムメタリックはアルミフレークを細かくして明暗を強調する塗装らしい。
■フロント (15点/20点満点)
・ランプ
ヘッドランプの小さく丸っこい形状は「つぶらな瞳」という意図らしい。可愛く見えなくもないが、大顔の両端に小さい目だと目が離れすぎのようで微妙。
ヘッドランプの内側にはデイタイム ランニング ライト等がシグネチャーを突き抜けてグリルに食い込む新しい表現。
・グリル
マツダの いつものペンタゴン (5角形)グリル。下辺にメッキモールが付き、横にシグネチャーが伸びるのも いつも通り。
サイズは幅広で大きく堂々としているが、今まで同様に平面的だし新鮮さは感じない。
グリルはフロントで先ず目につく所なので 新アーキテクチャらしい新鮮さがないのは微妙。
例えば BMWは左右2つに分かれたキドニーグリルを続けているが、立体感を与えたり、面取りを変えたり等の様々なチャレンジをして新鮮さを出すよう工夫している。
・バンパー
エアインテークの内側の角が ここだけ直角で悪目立ち。なんで こうなったのか理解不能。(-5点)
・ボンネット
大きく平面的なボンネットは見栄えだけでなく前方の見切りにも効果的。
■サイド (15点/20点満点)
フェンダーアーチはグレードの違いによってプロテクター(クラッディング)とガーニッシュの どちらかが付く「足し算」のデザイン。
さらにフェンダーアーチの上に凹面による陰が強い三日月上のラインを足し算。
そのうえフロント フェンダーにエンジン等のグレードを示すガーニッシュ(バッジ)を足し算。
とにかく屋上屋を重ねて煩雑(ビジー)。上質さを表現するなら「引き算」のデザインの方が良いのでは。(-5点)
・ウィンドウ周り
CX-5はサイドウィンドウの下辺にメッキモール。視点を下げて高重心感を軽減し、キックアップによるダイナミックさを強調。
一方 CX-60は逆にサイドウィンドウの上辺にメッキモール。車格の大きさを強調したり、ルーフの荷重を前へ流す表現のようだ。しかし高重心感も強調され、直線番長みたいなプロポーションを助長しているようで微妙。
Dピラーの所のキックアップのため斜め後方視界も微妙。
■リア (5点/10点満点)
・ランプ
今までのFF SUVと同じような形状のランプ。外側のライトの形状を角ばらせたり、内側へ伸びる長さを増やしたりしたそうだが、いずれも小変更で さほど新鮮さは感じない。
・バンパー
バンパーの下にダミーのエグゾーストパイプを4つも並べている「足し算」のデザイン。エンジン等が何種類もあるためコスト的にダミーパイプに したそうだ。
そこは高価格帯として本物にこだわって欲しいところ。もし 本物にできないなら いっそダミーパイプを無くした「引き算」のデザインの方が潔くて良いのでは。(-5点)
・ウィンドウ周り
ルーフスポイラーはボディ同色。ブラックアウトして高重心感や後ろ重心感を軽減する方法もあるだろうが、車格の見栄え重視か。
窓が小さく後方視界はイマイチ。デジタルインナーミラーが標準で付いてないと辛いのでは。これはデザインよりも装備でカバーすべきことか。
■おまけ (デザインクリニック提案)
例としてレビューで気になる点について見直し案を提案する。
テーマはマツダのコンセプトカー「ビジョンクーペ」。そのスリーク(滑らか、伸びやか)な表現のエッセンスを取り入れてみた。マツダが最近言っている「しなやかな走り」の表現に合っているし、今までのFF SUVと違ったデザイン スタイルで新鮮。
主なポイントは以下の通り。
・ノーズを ほんの少し下げて少し伸ばし、伸びやかなボンネットに。
前輪の車軸より前側を下げることで、フロント ミッドシップらしさと それによる操縦性の良さを表現。
フロント フェイスの奥行きも増えて立体的に。
・サイドウィンドウを後ろまで伸ばし、リア オーバーハングのボリュームを軽減。
窓の面積が広くなってSUVらしいスペースも表現。
・フェンダーアーチのガーニッシュやフェンダーのバッジを引き算。
ただしサイドシルの黒いクラッディングはサイドボディの厚みを軽減するため残す。
・ダミーのエグゾーストパイプを無くして、代わりにデュフューザーに。
■注記
※このブログのレビューは あくまで個人的意見の相対評価
※このブログで「デザイン」は外装スタイリング(外観)のこと
※画像の出典
https://www.mazda.co.jp/cars/cx-60/
https://www.mazda.co.jp/cars/cx-5/
https://bmw.jpn.org/bmw/new-x3-g01-f25
https://www2.mazda.co.jp/motorshow/2017/exhibits/visioncoupe/
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