重箱の隅が気になるほど見事な奥ゆかしい和風デザイン
■まとめ (A 合計95点/100点満点)
日産 アリアは日産の新世代のバッテリ電気自動車(BEV)専用プラットフォームのトップバッターのミドルクラスSUV。新世代を表現する新しいデザインが求められる。
それに対して日本の美意識に基づく「粋」、「整」、「間」、「移ろい」というキーワードで独自性のある奥ゆかしいデザインを実現した。
例えば、ルーフラインのメッキモールとボディ全周を取りまくキャラクターラインが「整」った枠となり、その周りで大きな面が滑らかな抑揚で「移ろい」。整然とした最小限の枠の中での奥ゆかしい変化は日本の美意識に合っている新鮮なSUVのフォルムだ。
また フロント パネル(シールド)に施された「組子」をモチーフにしたレリーフは凹凸が小さくて遠目に見えず、分かる奴だけには分かる「粋」。ユーザー心をくすぐる。
これだけ見事なデザインだと重箱の隅も気になってくる。サイドシルのプロテクター(クラッディング)の折れ曲がったカーブやルーフラインのメッキモールの端のピン角は他の場所と整合していない。こんな細かなことが気になるのは全体デザインが素晴らしいということ。
この新鮮なデザイン手法はミドルクラスSUVの大きな面積だから効果的という気もする。だから 今後の日産のBEVが どんなデザインになるか日産の御手並みを拝見したい。
■主な比較対象車
・日産 リーフ (同門車)
・日産 エクストレイル (同門車)
・ボルボ XC40 (競合車)
■キャラクター
・ポジション
2022年発売の日産アリアは 日産のバッテリ電気自動車(BEV)専用プラットフォーム第1弾のミドルクラスSUV。新世代のBEVへの日産の取り組み方の第1印象を決める重要なポジションであり、日産の最新技術を網羅をしている。
それを表現するためには 日産リーフでエンジン車のデザインに寄せた旧世代BEVのイメージを刷新するような新しいデザインが望まれる。
・用途
ミドルクラスSUVながら走破性や積載性は あまり狙っていない。狙っているのは 最新技術による新しいドライブ体験。それは例えば 絶対的な加速性能の追求よりも スムースな加速を簡単に楽しめるインテリジェントなもの。エンジン始動という節目がなく 音も出ないまま静かに走り出し、滑りやすい路面でも俊敏な加減速が1ペダルで味わえるらしい。
・ユーザー
若いファミリー層がターゲット。そして 予算的に余裕があったうえで クールなBEVを選ぶイメージだそうだ。
・デザイン要求
つまり新世代BEVとしてスムースなドライブ体験をイメージできるようなクールで新しいデザインが必要だ。
■コンセプト (30点/30点満点)
・テーマ
「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」がキーワード。日本の美意識に基づくシンプルで力強くモダンなデザインだそうだ。
より具体化すると 過去の発表では「スリーク」、「シック」、「シームレス」と言っていて 日本らしさを感じなかった。しかし 最近の発表では「粋」、「整」、「間」、「移ろい」と言っているので、後付けっぽく感じるが、日本らしいテーマ。ただし キーワードが多いので 相互のバランスに注意が必要なのが気がかり。
・アイデア
静かでスムースな走りを SUVで ありがちな動物的な表現とは違い、滑らかに面が変化していくフォルムで表現。
・モチーフ
日本の伝統的幾何学模様「組子」をモチーフにしたレリーフをフロントパネルに施した。
・スタイル
日産のフロントフェイスのスタイル「Vモーショングリル」のシグネチャーは 従来までのメッキ ガーニッシュからデイライトへ替え、新世代らしい新しい表現。
ベルトラインはCピラーの所で三角にキックアップした日産のスタイルを踏襲。
・パッケージング
同じくミドルクラスSUVの日産エクストレイルと比べるとアリアは積載性を重視していないので全長が やや短く、全高が やや低い。一方 BEVらしくホイールベースは長く、床面は平らなのでキャビンの居住性には配慮されている。
SUVらしい高めの最低地上高とバッテリースペースのため床面は高い。乗り降りの際は床面の高さを感じるが、低めのヒール高のため乗りこんでしまえば背の高いクルマに乗っているという感覚は薄れるので、ドライブ体験という狙いには合っている。
■全体デザイン (25点/20点満点)
・プロポーション
アーチ状のルーフライン、長いキャビン、短くて高いボンネット、長めのホイールベースにより新鮮味のあるモノフォルムのプロポーション。新規BEVプラットフォーム御披露目の目的に合っている。
なお ルーフラインのメッキモールが目立つのでクーペと思いがちだが、ルーフスポイラー部分を含めた実際のルーフは意外と長く、後席の居住性を確保している。
・フォルム
ルーフラインのアーチ状のメッキモールとボディ全周を取り巻くキャラクターラインが枠となってフォルムを引き締めている。これが「整」の表現か。メッキモールが ありがちなサイドウィンドウ取り巻くのと違ってルーフ側だけというのも枠として効果的。
それらの整然とした枠の周りを滑らかな抑揚の面が覆っている。これが「移ろい」。SUVでありがちなフェンダーフレア等を強調した力強さ重視のフォルムと違って、アリアの滑らかな面の変化は奥ゆかしい。
整然とした最小限の枠の中での奥ゆかしい変化は日本の美意識に合っている新しいSUVのフォルムだ。(+5点)
これに比べると競合するBEVのSUVであるトヨタ bZ4X、ボルボ XC40等は既存のSUVの ありがちなフォルムで新しさを感じない。
・カラーリング
イメージカラーの「暁」(あかつき)と呼ばれるカッパーは BEVらしく電気を流す銅の色を表現したそうだ。
■フロント (20点/20点満点)
・ランプ
ヘッドランプは 4個の粒粒した四角の並び。先進技術の表現のためか 小さな粒粒でLEDらしさを強調。
その下のシグネチャーはピン角のL字型。シグネチャーらしい連続した形。
両者は各々の目的を優先したためか 形も違うし、位置が段違いなので整合していない。つまりテーマの「整」に反している。(-5点)
・グリル
エンジン車のアッパーグリルに相当する位置にあるフロント パネル(日産は「シールド」と言っている)はキャラクターラインで上下に分かれ、上側は平坦、下側は「組子」をモチーフにしたレリーフ。
平坦な面が光るハイライトを日産は「粋」と言っている。しかし そんな印象は受けない。むしろ フロントの上の方まで黒いので、面長で重心が高く見える。
代わりに「粋」と感じるのは「組子」レリーフの方。レリーフの凹凸が小さくて、近くに寄って見ないと分からない。あからさまではなく 分かる奴には分かる という奥ゆかしさが日本らしい「粋」。こんなユーザーだから分かる という仕掛けが嬉しい。(+5点)
・バンパー
Vモーショングリルから後ろへ(エアインテーク以外は)滑らかな面で つないでいる。アンダーグリルの周りは台形のプロテクター(クラッディング)で Vモーショングリルからの流れとマッチしている。
日産ノートと似たような構成だが、アリアはグリルの間やエアインテークが より太くて力強い。
・ボンネット
面積が小さいことをカバーするためか、くっきりしたキャラクターライン。他の場所と見比べると折れ角が強すぎる気がして微妙。
■サイド (10点/20点満点)
・ルーフ
ルーフラインに沿ったアーチ状のメッキモールが目を引く。そして ルーフ全体をブラックアウトして まるでクーペのように見せているのが効果的。
メッキモールの後端はピン角になっていて、切りっ放しでボディに食い込んでいるように見えてしまう。重箱の隅みたいな細かいことだが、他の場所の滑らかなエッジ処理に比べると雑に見えてしまって残念。(-5点)
・フェンダー、ドア
大きな面積を使って連続的に緩やかな抑揚が「移ろい」を表現。緩やかな抑揚でもフロントタイヤからの流れやリアタイヤへの流れが 表れている。
大きな面が緩やかだからこそ横に走るキャラクターラインも折れ角が強くないのに効果的。ただ リアドアあたりでラインが窓に寄っていて、ショルダー面が少し窮屈そうなのは微妙。
フェンダーアーチとサイドシルにはSUVらしいクラッディング。
サイドシルのクラッディングはリアドアの中央でカーブが折れ曲がった形状。他の場所に比べて曲率が強すぎて整合性がない。「整」のテーマに反した既存のダイナミック表現。
ここは「整」の枠として もっと緩やかなカーブや直線の方が良かったのでは。(-5点)
もし クラッディングも整っていれば ルーフラインのメッキモールと一緒に「整」った額縁を作り、その中で「移ろい」を表すことが出来ただろう。
・ウィンドウ周り
見事に流線型を描く流麗なウィンドウ グラフィックは潔い。「潔」という言葉がテーマに有っても良かった気がする。
ベルトラインのキックアップはリアドアを過ぎて後方で わずかなので斜め後方視界も良い。
ピラーはブラックアウトして目立たせず、ゴム類をガーニッシュで隠しているのも「粋」。
・タイヤ、ホイール
ホイールは幾何学形状が複雑に組み合わさったデザインで「組子」っぽい印象。
■リア (10点/10点満点)
・ランプ
横一直線に走るランプ。光った時に見えるライトの両端が少しカーブしていて、そのカーブで抱えられた空間が「間」の表現に感じられて面白い。
・バンパー
下側のディフューザーと一体化したクラッディングが大きいためか、その上の塗装面はシンプル。
・ハッチ
控えめなリアスポイラーみたいな表現も奥ゆかしい。
■おまけ (デザインクリニック提案)
例としてレビューで気になる点を修正してみた。
・フロントランプの食い違いを一体化
・サイドシルのクラッディングのカーブを緩やかに
・ルーフラインのモールのピン角を丸めた
その他に提案として、
・フロントの重心を下げた
・フェンダーのラインを減らした
・ドアハンドル周りをシンプルに
■注記
※このブログのレビューは あくまで個人的意見の相対評価
※このブログで「デザイン」は外装スタイリング(外観)のこと
※画像の出典
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/ariya-details/exterior.html