イタリアのピニンファリーナ等でのデザイン作業の要点が分かる
■まとめ
『フェラーリと鉄瓶』はイタリアのカロッツェリア(自動車工房)であるピニンファリーナ等でのカーデザインの経験と日本の山形でのカロッツェリアのような「ものづくり」への挑戦を語っている。
中でも世界中からのカーデザインを請け負うピニンファリーナでのデザイン作業の様子やフェラーリでの車両開発の様子は興味深く、カーデザインや企画に関心のある人に おすすめ。
自分が特に面白かったのはイタリア人の気質や職人芸とイタリアでの ものづくりとの関係。イタリアだからこそフェラーリのような美しい車が生まれ、大量生産をせずに商売が成り立っていることが良く分かった。
■どんな本か
・著者
著者の奥山清行(Ken Okuyama)氏はGM、ポルシェ、ピニンファリーナでチーフデザイナーやデザインディレクターを歴任後に独立。最近ではカーデザインだけでなく、幅広く工業デザインを行っている。そしてイタリア的な「ものづくり」を山形で活かそうと「山形カロッツェリア研究会」を作った。
著者の言う「デザイン」は製品の開発、試作、量産だけでなく、人を作る、イメージを作る、販売する方法を作ることも含んでいる。
(例えば、『カーデザインは未来を描く』の著者 根津孝太氏も「デザイン」を幅広く考えていた)
・概要
イタリアのピニンファリーナを中心に海外でのカーデザインの経験と その経験を活かした山形での「ものづくり」への挑戦。
サブタイトルは『一本の線から生まれる「価値あるものづくり」』。
■特に面白かったのは
・何千枚ものスケッチ
エンツォ・フェラーリをデザインした時の最終スケッチは15分しか かからなかった らしい。しかし その1枚の後ろには何年もの格闘があった。それまでに車の機能や空力等を考えて何千枚もの絵を描いた そうだ。
確かに、機能等の大量の要件を満足させながら、アイデアを磨く膨大な努力を出来るかがプロとアマの違いなのだろう。と言っても、その大量の要件は多数のエンジニア等の意見によるものなので、アマが詳しく要件を知るのは難しそうだ。デザイン結果を数多く詳細に見れば分かってくるのだろうか。
・個人の尊重
イタリアのデザインが素晴らしい理由は ある人の考えが そのまま製品に伝わりやすいからだ そうだ。才能がない人も任されて やっているうちに才能が のびる。
またピニンファリーナではアイデアを選ばれた人が最後まで方向を決められるそうだ。だから統一感が出る らしい。
確かに、色々な意見を取り入れると、個性が薄味になったり、チグハグなデザインになることがある。日本車のデザイン作業の記事を読んでいると、意見をもらってデザインを やり直す話が たびたび出てくる。もちろん良くなることが多いのだろうが、船頭多くして船山に登る というようなデザインも見られる。